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第3話 初模擬戦訓練

Aвтор: 米糠
last update Последнее обновление: 2025-12-18 06:05:04

 翌日。朝露に濡れた練兵場に、一年A組の生徒たちが集められていた。

 石畳の上に立ち並ぶ木人形、槍や剣を収めた武具庫、そして砂の舞い上がる模擬戦用の円形広場。

 教官グランツが厳しい声で告げる。

「本日よりお前たちは騎士としての修練を積む! まずは互いの力量を知るための模擬戦だ。怪我を恐れるな。命を落とさなければそれでいい!」

 ざわり、と空気が張り詰めた。

 最初に円形広場へ進み出たのは、背の高い少年だった。

 分厚い肩と胸板、陽に焼けた肌に大剣を背負う姿は、すでに若き兵士のようだ。

「オルフェ・ダラン」

 ダラン辺境伯家の次男だ。その声は低く響き、揺るぎない自信に満ちていた。

「俺は将来、百人を率いる騎士になるつもりだ。だからここでも、力で皆を圧倒する」

 宣言どおり、模擬戦では大剣を片手で振るい、相手の剣を力ずくで弾き飛ばした。

「おお……!」とざわめきが起こる。

 豪放な笑みを浮かべる姿は、すでに「隊の先頭に立つ男」の風格を漂わせていた。

 続いて、赤毛の少年が軽やかに駆け出す。

「リディア・マルセル!」

 弓と槍が得意な山の領地から来た赤毛の少年は 誰より速く走ってみせた。

 声は明るく、どこか人懐こい。

 短槍を手にひょいと跳ねると、相手の肩口を軽く突き、次の瞬間には背後へ回り込む。

 その機敏な動きに観客から笑い混じりの感嘆が漏れる。

「平民出のくせに」と囁く声もあったが、本人は気にも留めず、胸を張ってにかっと笑った。

「俺、小さいけど負けないからな!」

 三人目は、王都の武官の家の出で、黒髪の細身の少年。

 背筋は真っすぐに伸び、無駄のない所作で槍を構える。

「レオン・フィオリ」

 静かな口調だが、堂々とした響きがある。

 彼は、槍を通じて、己を磨きた思っているいる。

 槍先が揺らめき、次の瞬間、彼は寸分の狂いもなく相手の急所を突いた。

 その動作はまるで舞のように洗練されており、ただの槍術ではなく「美しさ」さえ感じさせた。

 レオンは、休憩時間には魔導理論書を取り出して読んでいる「趣味は魔法の研究だ」と言ってはばからない、セリウスにとっては気になる人物だ。

 セリウスとアランは、次々と模擬戦に挑む同級生たちを見ながら、それぞれの印象を胸に刻んでいった。

「……なあ、セリウス」

 隣で腕を組むアランがぼそりと呟く。

「クセのある奴ばっかりだな」

「ええ。でも、仲間にするなら……きっと頼もしい人材になりますよ」

 いよいよ、セリウスとアランの番が来た。

「次――アラン・リヴィエール、セリウス・グレイヴ。出よ!」

 練兵場に、ざわめきが広がる。

 公爵家の嫡男と、その従者の少年。否が応でも注目が集まる。

 最初に進み出たアランは、金の髪を風に揺らし、長剣を片手に掲げる。

「アラン・リヴィエール」

 澄んだ声に一切の迷いはなく、堂々たる姿に同級生たちが息を呑んだ。

 父上のように、領地を守り導ける騎士になる……とその目は語っていた。

 模擬戦では、正面から相手を受け止め、力強く押し返す。

 彼の剣筋はまだ粗い部分もあるが、豪胆さと揺るぎなさが際立ち、教官が満足げに頷いた。

「ふむ……剣を振るう姿が板についておる。王者の器だな」

 次に呼ばれたセリウスは、一瞬だけ足を止め、深く息を吸った。

(……ここで目立ちすぎてはならない。私が女であることは、絶対に悟られてはいけない。けれど、弱すぎてもアラン様の名に傷がつく……)

「セリウス・グレイヴ。……アラン様に仕える騎士として、強くなるためにここへ参りました」

 静かに名乗り、長剣を構える。

 相手が突っ込んでくる。

 セリウスは軽やかに身を捻り、刃を受け流し、流れるように突き返す。

 鋭い、しかし一歩引いた剣筋。決して致命には至らないが、確実に「勝てる」動きだった。

 観客席からざわめきが漏れる。

「今の……すごく速くなかったか?」

「いや、でも攻めきらないな。抑えてる?」

 セリウスは汗を拭い、静かに一礼した。

「以上です」

 教官は目を細めた。

「……無駄のない技術だな。だが、実力を隠しているようにも見える。今後に注目すべきだろう」

 練兵場を下がる途中、アランが小声で囁く。

「セリウス……わざとだな?」

「えっ……」

 胸が跳ねる。

 アランはにやりと笑った。

「本気を出した時の、お前の剣を俺は知ってる。……でもいいさ。今はそれで」

「アラン様……」

 その一言に、セリウスの胸の奥がじんわりと熱くなった。

(アラン様……やっぱりお見通しなんですね)

 模擬戦を終えて寮に戻ろうとしたところ、声をかけられた。

「おい! アランにセリウス!」

 大股で歩いてきたのは、筋骨たくましい少年――オルフェ・ダランだ。大剣を背に負い、堂々と胸を張っている。

「なかなか見事な戦いぶりだったじゃないか。特にアラン、お前の剣は真っ向勝負で潔い。気に入った!」

 アランは口元に笑みを浮かべた。

「ありがとう。だが、まだまだだ。父上のようには程遠い」

「謙遜するな。あれほど堂々と振るえる奴はそういない。俺は将来、百の兵を率いる騎士になる。お前とも戦場で肩を並べたいもんだ」

 オルフェは力強く笑い、セリウスの肩もぽんと叩く。

「それと、お前だ、セリウス。妙に落ち着いた剣筋だな。力押しじゃなく、相手をいなす……俺の苦手な型だ。ああいう戦い方も面白い」

 セリウスは少しうろたえつつ、頭を下げた。

「と、とんでもありません。まだまだ未熟です」

 そこへ、快活な声が割り込む。

「いやあ、いいもん見せてもらったぜ!」

 赤毛を揺らして走り寄ってきたのは、リディア・マルセル。小柄な体に軽装の鎧を着け、背には短槍と弓を背負っている。

「アランはさすが公爵家のお坊ちゃん、堂々としてたな! でも俺、セリウスの方が好きだな。あのしなやかさ、速さ……森の中で戦ったら絶対強いだろ?」

「え、ええと……ありがとう……ございます」

 セリウスは耳まで赤くなり、視線を泳がせる。

「それにさ、セリウスって馬に乗ったらもっと映えるんじゃないか? 軽やかだし、伝令役なんてぴったりだぜ」

 リディアは悪びれもなく笑った。

「今度、校庭で競争しような!」

 そして最後に、静かに歩み寄ったのは黒髪の少年、レオン・フィオリだった。

 背筋を伸ばし、無駄のない所作で一礼する。

「アラン・リヴィエール、そしてセリウス・グレイヴ。二人の戦い、拝見しました」

 その声は澄んでいて、どこか気品が漂う。

「アラン殿、あなたの力強さは実に王者然としている。だが……セリウス殿。あなたの剣は、研ぎ澄まされすぎている」

「……研ぎ澄まされ、すぎて?」

 セリウスは思わず問い返す。

 レオンは少し口元をほころばせた。

「はい。あれは隠しきれぬ技の片鱗。あなたは剣を振るう時、どこか迷いを帯びているように見えた。しかし、それは決して弱さではない。……興味深い」

 彼は軽く目を伏せ、柔らかく言葉を添える。

「槍を学ぶ者として、あなたとぜひ手合わせしたい。近いうちに、どうか」

 オルフェは豪快に笑い、リディアは無邪気に肩を叩き、レオンは静かな興味を示す。

 三者三様の眼差しが、セリウスとアランへ注がれていた。

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